レーシングサイドカーは基本的にバイクのエンジンを流用しています。
シーズン前にチェックと清掃のためにエンジンを開けたので紹介しようと思います。
現在のF1/F2クラスはバイクのエンジンであることがレギュレーションで規定されていますが、かつては船外機のエンジンや4輪のエンジンを使用する試みもあったようです。
日本独自のミニサイドカーF4クラスは現在も排気量の規定のみとしているため、レーシングカート様なども使って良いことになっています(現実的にはチェーンラインの確保や大きさ・重量、信頼性などから85ccモトクロス用エンジンが主流です)。
バイクのエンジンを流用するにあたり、サイドカーでは大きく2つの問題があります。
①バイクでは発生しない横方向に働く遠心力への対策。
バイクの場合はコーナーリングでマシンを傾けることで遠心力とつり合うため、エンジンオイルが極端に左右に偏ることはありませんが、サイドカーの場合は強い遠心力が水平方向に働くためそのまま使用するとオイルやガソリンが偏って吸い上げることができなくなってしまいます。吸い上げに支障が出ると潤滑・冷却不足によりカムシャフトが焼き付いたり、ピストンやメタルにダメージを与えてしまいます。
2ストロークや古い4ストロークで使用するキャブレターにおいても同様に液面が偏るとガソリンを吸い上げられなくなり、ガソリンがエンジンに届かないためガス欠を起こしたかのように息継ぎ症状が出てしまします。
当チームのGSX-R1000エンジンの写真です。
楕円形の網の部分がエンジンオイルを吸い上げるストレーナー、その周りに仕切り板があります。この板があることで液面を安定させオイルの偏りを抑制しています。
このエンジンはエンジン本体側を改造していますが、オイルパン側の形状を複雑に加工して対応している場合もあります。
②搭載位置を下げるための対策。
ほとんどのロードスポーツバイクのエンジンは深いオイルパンをもつ「ウエットサンプ方式
」で、自然落下してくるオイルをオイルパンに溜めて吸い上げる方式です。
SUZUKI公式サイトの現行型GSX-R1000サイトの画像から切り出したものです。
青線で囲った部分がオイルパンで、下に大きく突き出しているのがわかります。
これをサイドカーのフレームに直接搭載すると、このオイルパンの分だけ高い位置にエンジンをマウントしなければなりません。車体を傾けずに走るサイドカーの場合、4輪同様に重量物はできるだけ低い位置に配置することが望ましいためこの高さは致命的です。
当チームのGSX-R1000エンジンのオイルパンです。
ご覧の通り非常に薄く平らで下には全く突き出していません。
このオイルパンならば搭載位置をノーマルの突き出し分下げることができます。
ただしオイルパンに風が当たらないのでオイルクーラーは必須です
また、別の手段としては「ドライサンプ方式」への改造があります。簡単に言えばオイルを溜める機構をオイルパンではなく別の場所に設置したタンクに持たせ、ポンプでオイルを送り出し落ちてきたオイルは回収用のポンプでタンクへ戻す方式です。
ざっくりと言えば、メリットは遠心力に影響を受けない安定したオイル潤滑と低重心化、デメリットは構造の複雑化に起因するトラブルやコスト増といったところです。近年の世界選手権やマン島TTでも多く採用されています。
それ以外の部分はバイクとあまり変わりません。駆動チェーンも同じです。
各レギュレーション次第ですがバイクと同じ目的と用途でパーツを強化したり交換したりといったところですが、設計上遠心力を考慮していないという点は忘れず注意しておく必要があります。(◯◯◯の××年式はクランクが横Gに弱く破損する、というような情報がたまに海外から流れてきたりします)
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